組織の未来をつくるコラム

AIを導入した会社で、人は育っているか

―『令和8年版 労働経済の分析』から考える、中小企業の人的資本投資と仕事再設計―


「人を採用したくても、応募がない」「社員を研修に送り出したくても、現場が回らない」地方の中小企業では、日々の仕事をこなすことが優先され、人財育成が後回しになりがちです。そのような中、文書作成や情報整理を支援するAIは、人手不足を補う手段として期待されています。またAIは冷たい効率化ツールではなく「人が育つための触媒」になりえます。厚生労働省『令和8年版 労働経済の分析』は、「AI等技術革新が進む中での労働市場の現状と課題」を取り上げています。そこから読み取れる重要な論点は、AIへの投資と、人がAIと協働するための人的資本投資を組み合わせる必要性です。中小企業にとって、この考え方をどのように日々の仕事へ落とし込むか。私は、人財育成型のMBOと、対話を通じた仕事再設計が、その実践の場になると考えています。


白書は、過去のIT普及期を振り返り、IT投資と人的資本投資を組み合わせることの重要性を検討しています。新しい技術を導入しても、それを仕事に生かす知識や能力が伴わなければ、十分な成果にはつながりにくいという問題です。ここでいう人的資本投資は、研修費の支出だけに限りません。勤務時間内に学ぶ時間を確保すること、学んだ内容を試す仕事を任せること、上司や同僚と結果を振り返ることも、人の能力を育てるための大切な取り組みです. まず、「どこで、どのような漏れが起きているか」「自分は原因をどう考えるか」を整理する。そのうえで、AIに「この仮説には、どのような見落としがありますか」と尋ねる。回答を同僚と検討し、小さく試して結果を確認する。この使い方であれば、AIは自分の考えを広げ、見直すための対話の相手になります。



人財育成型のMBOでは、達成する成果とともに、その過程で身につけたい能力を明らかにします。取り組みの途中でAIを使い、確認すべき情報、原因の別の捉え方、改善案の長所と短所などを検討します。そして、採用する案は本人が選び、その理由を説明します。個人がAIと対話するだけでは、職場全体の仕事のつながりを理解することは難しいでしょう。そこで重要になるのが、社員同士の対話を通じた仕事再設計です。AIには、現場から集めた事実や意見を整理し、改善案を広げる支援を任せられます。一方、困りごとの意味を確かめ、誰が何を変えるかを合意するためには、当事者の対話が欠かせません。関係性が築かれることで、分からないことや失敗も話しやすくなります。その土台の上で改善を試し、結果を振り返ることが、職場の学習を支えます。


白書が注目する能力の一つに、「メタスキル」がありますビジネスや学習の文脈におけるメタスキルとは適応力・問題解決・構造化力・継続学習力・自己認知力などの要素が含まれます。私は、このメタスキルがAI活用の土台にもなると考えます。自分の理解不足に気づければ、AIへの問いを修正できます。目的や優先順位が明確なら、提案を選別できます。振り返る力があれば、回答が現場で役立ったかを検証できます。MBOで自分の行動を見直し、仕事再設計で他者の視点から仕事を捉え直す。そこにAIとの対話を組み込むことで、メタスキルを使い、育てる機会を増やせるのではないでしょうか。この組み合わせは白書が直接検証したものではなく、白書の知見を踏まえた実践への提案です。その小さな実践が、AIを活用しながら人が育つ、学習する組織への一歩になると考えます。


このコラムの詳しい内容はnoteの記事でご覧になれます。


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