組織の未来をつくるコラム

人時生産性を高める真のリーダーは「システム思考」を持つファシリテータです

「人時生産性」という言葉が、いま多くの現場で注目されています。人時生産性とは、従業員一人が一時間あたりにどれだけの付加価値を生み出しているかを示す指標です。単に「人件費を削る」「作業を効率化する」ための指標ではなく、人の時間の使い方を変革し、仕事の価値を再設計するための羅針盤です。この人時生産性を本質的に高めるためには、単なる業務効率化ではなく、組織の構造・関係性・価値観のレベルから変化を生み出すことが必要です。そこで鍵を握るのが、「システム思考」のスキルを持つミーティングリーダー=ファシリテータの存在です。部門間のつながりや情報の流れ、意思決定の遅れなどのボトルネックをシステム思考では、表面の問題の背後にある構造(構造的要因)を可視化します。


たとえば、介護施設で記録業務が負担になっている場合、「記録が多すぎる」こと自体が問題ではなく、「情報共有の仕組みが職種間で分断されている」「責任の所在が曖昧で同じ報告を二重に書いている」といった構造的課題が潜んでいます。このような構造を見抜き、関係性の再設計を促すのが、システム思考を実践できるファシリテータの役割です。単なる数値改善ではなく、“人と仕事のつながり方”を変えることが、人時生産性を飛躍的に高める近道となります。人時生産性の改善は、まず“現場の現実”を可視化することから始まります。ここで効果的なのが、UML(統一モデリング言語)や業務フローチャートなどの「構造化ツール」です。システム思考では、組織を「要素の集合」ではなく「相互に影響し合う関係のネットワーク」として捉えます。



業務の遅れやストレスは、個人の能力不足ではなく、構造の歪みから生じていることが多い。ファシリテータは、因果ループ図を使ってこの構造を可視化します。たとえば「情報共有の遅れ → 作業のやり直し → 残業時間の増加 → 疲労 → ミスの増加 → さらなるやり直し」という悪循環を描き出し、その中の小さなテコ=レバレッジポイント(少ない力で大きな変化を起こす部分)を探します。システム思考の本質は「思考の構造を変えること」です。どんな改善策も、現場のメンバーが納得し、自ら関わり方を変えなければ定着しません。ここで有効なのが、U理論で言う「プレゼンシング(源とつながる)」の段階です。ファシリテータは、単なる会議進行役ではなく、参加者の声を丁寧に聴き、“現状を超えた未来の可能性”を共に見る存在となります。


多くの企業で人時生産性という言葉が誤解されるのは、“生産性を上げる=人を減らす”という短絡的な発想に陥るからです。しかし、これからの時代に求められるのは、「人を活かす経営」です。人時生産性の向上とは、社員一人ひとりの時間の中に眠る知恵・創造力・思いやりといった「見えない資産」を引き出すことに他なりません。そのためには、経営者や管理職が“答えを与えるリーダー”から“問いを立てるファシリテータ”へと変わる必要があります。「この時間が何のために存在するのか?」を一緒に考える。それこそが、人時生産性の本質的な改革です。真のリーダー=ファシリテータの人財育成は急務です。当事務所ではファシリテータ育成のサポートを行っています。何なりとお問合せください。