組織の未来をつくるコラム

ホルンダル効果に学ぶ人の力による生産性向上

初の千円超えの福島県内最低賃金が適用となる来年1月1日まで3カ月を切り、県内の中小事業者は賃上げの原資確保に向け、経費削減や業務効率化に追われているという新聞報道が、先日、伝えられました。人手不足時代に、現在の従業員の離職を防ぐためにも賃金の原資確保は重要な問題です。また、人財の確保も経営上の大きな課題です。シニア・ミドル層の採用と業務配置・役割の付与という人財活用について調べていたところ、「投資しなくとも生産性は上がるという、ある意味“魔法のような”現象を見つけました。時は1940年代から1950年初頭、スウェーデン中部の製鉄工業地帯のホルンダル製鉄所で近代化投資(設備更新)を行っていない製鉄所でも生産性が向上しているという不思議な現象が見られました。


設備投資もなく、技術革新もないのに成果があがる?同業他社が近代化投資を行うなか、ホルンダル製鉄所では、長年、古い設備のままでした。しかし不思議なことに、毎年2%ずつ生産性が上がっていました。この不思議な現象は労働生産性研究の中で発見されエリク・ルンドルベルグとステン・マルムらが調査し、後に「ホルンダル効果」として経済学・経営学の文献に登場しました。この現象は、のちにノーベル賞経済学者ケネス・アローによって理論化され「やりながら学ぶ」という概念で世界に広まりました。経済学の応用として以後、「内生的成長理論」の基礎概念のひとつとなりました。経営学的意義として「設備投資がなくても、生産性は人間の学習と仕組みによって向上する」という教訓は、人的資本経営やカイゼン活動の考え方に近いものです。



確たる立証はないものの「ホルンダル効果」にはいくつかの仮説が提示されています。1,作業員が経験を重ねることで技能が向上し、段取りやミスの削減が起こった(学習効果)2,現場の工夫、作業標準化、共同の質の向上などのより、間接的に生産性が上がった(管理改善・組織効率化)3,同じチームで長年働くことによる信頼関係やチームワークの強化があった(職場文化・士気の向上)4,生産性を記録する仕組みが導入されたことで労働者の意識が高まった(データ計測・監視の強化)5小規模な設備調整、保守、工程改善などが継続的に積み重ねられた(斬新的な改善)・・・などです。要するに「人の学習」と「関係性の成熟」が生産性をあげる要因となったということで、これこそが日本企業の得意とする「現場主義」に通じます。


ホルンダル効果が教えてくれるのは「生産性は設備からではなく、人の学習から生まれる」というメッセージです。組織の学習曲線を描くと、最初は遅い成長でも、継続して経験を重ねることで加速的に改善していくことが分かります。製造業だから「人時生産性」の効果があるのではなく、どのような業種でも「人時生産性」の向上は可能です。「業務の標準化」「作業手順の共有」「ノウハウの引継ぎ」「チーム内の振り返りミーティング」などの地道な学習の積み重ねが「自然な生産性向上」を生み出します。そのためには「人とチームが学ぶ仕組みを持つ組織」にすることです。年々、効果が出ますので「賃上げ5か年計画」の進捗に合ってきます。