組織の未来をつくるコラム

「令和の転換点」が突きつける問い──地方と企業、そして私たちの働き方はどこへ向かうのか

リクルートワークス研究所の報告書『令和の転換点』は、日本社会がいま「労働供給制約」という未曾有の局面に入ったことを明らかにしています。人口減少と高齢化の進行により、働き手は確実に減る。一方で医療・介護、物流、行政など、生活を支える対人サービスの需要は増え続ける。この需給ギャップは2030年に約340万人、2040年には1100万人規模に拡大する見通で、 令和の転換点これは単なる「人手不足」ではありません。社会全体として“必要な仕事量に対して、働ける人と時間が足りない「構造的な転換」です。この状況下で、最も重要な視点が「人時生産性」です。これからの日本では、長時間労働で穴を埋めることはできません。むしろ逆で、労働時間は短くしながら、人時あたりの付加価値を高めるこの転換が不可欠になります。


もう一つ深刻なのは、生活維持サービスの担い手そのものが減っていく現実です。報告書では、医療・介護・行政などの現場に「ほしい」「助けてほしい」という要請が集中し、職員が疲弊し、さらに人が辞めるという悪循環が描かれている。これはソーシャルワーカーやケア職の減少という形で、地方ほど顕在化しています。ここで問われるのは、「すべてを専門職に任せ続ける社会」が本当に持続可能なのか、という点です。今後は、行政や専門職だけに依存せず、地域住民や企業、NPOなどが緩やかに連携し、「できることを持ち寄る」共助の仕組みが不可欠になります。高度な専門性が不要な領域を地域で支える見守り、声かけ、小さな困りごとの共有。令和の時代に必要なのは、「制度としての福祉」に加えて、「関係性」としての福祉なのです。



労働市場が逼迫する中、多くの企業が即戦力採用に傾き、人材育成投資を控える傾向が強まっている。報告書はこれを「教育訓練投資の回収問題」と呼び、社会全体の質的低下を警告しています。しかし地方においては、外から人を奪い合う戦略は限界があります。だからこそ重要なのは、「地域の中で人を育てる」発想です。若手だけでなく、ミドル層、シニア層、主婦層も含めて、それぞれのライフステージに応じた学び直しと役割設計を行う。企業は単なる雇用の場ではなく、“学習の場”として機能することが求められます。人財育成とは研修の実施ではなく、日々の仕事の中で考え、改善し、対話する風土そのものです。地方創生の本丸は、インフラ整備ではなく、この「学び続ける現場」をどれだけ増やせるかにかかっています。


最後に強調したいのは、企業の公共性です。令和の転換点後の社会では、企業は単なる利益追求組織ではいられない。地域の雇用を支え、人を育て、生活インフラの一部を担う存在として、事実上の「社会装置」になっていきます。働きやすい職場づくり、人時生産性の向上、地域活動への参加、弱い立場の人を排除しない採用。これらはCSRではなく、企業が生き残るための前提条件になっていきます。企業が地域を支え、地域が企業を支える。この相互依存関係を意識した経営こそが、これからの地方経済の土台となります。「令和の転換点」とは、日本が縮小均衡へ向かう分岐点ではありません。働き方、学び方、支え合い方を再設計できるかどうかが問われる、静かな革命の入り口です。


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