不確実な時代における経営の二層構造― 仕事再設計 × 人時生産性 × 学習する組織 ―
中東情勢の長期化に象徴されるように、現代の経営環境はこれまで以上に不確実性を増しています。エネルギー価格の高騰、為替の変動、物流の混乱など、企業努力ではコントロールできない外部要因が、企業の収益構造に直接影響を及ぼす時代に入りました。仮に短期的に情勢が落ち着いたとしても、この不安定な構造自体は今後も続くと考えるべきでしょう。このような環境下で経営者に求められるのは、「外部環境に依存しない経営体質」をいかに構築するかという視点です。
その中心にあるのが「仕事再設計」と「人時生産性の向上」です。限られた人材で最大の付加価値を生み出すためには、これまでの仕事のやり方を前提にするのではなく、ゼロベースで見直す必要があります。しかし、ここで重要なのはアプローチの取り方です。短期的な効率化に偏らず、また理想的な組織づくりに時間をかけすぎず、これからの経営に必要なのは、この両方を同時に進める「二層構造のマネジメント」です。
不確実な時代において、まず必要なのは「生き残る力」です。今すぐ収益を確保するための取り組みが不可欠です。ここで有効なのが、ピーター・ドラッカーのマネジメント思想です。ドラッカーは「成果に結びつかない仕事はやめるべきである」と説きました。現場には、長年の慣習の中で続けられている「やらなくてもいい仕事」が必ず存在します。それらを見極め、思い切ってやめること。あるいは統合・変更・簡素化すること。この決断こそが、人時生産性を短期間で向上させる最も現実的な手段です。言い換えれば、短期の経営とは「捨てる経営」です。
一方で、これだけでは企業の持続的成長は実現しません。環境が変わり続ける中で必要なのは、自ら変化を生み出す力、すなわち「学習する組織」として、組織の中で起きていることを共有し、なぜそうなるのかを考え、対話を通じて新しい視点を獲得する。この積み重ねが、組織の柔軟性と適応力を高めていきます。
ただし、このプロセスには時間がかかります。長期の経営とは「育てる経営」であると捉える必要があります。ここで重要な役割を果たすのが、対話の質です。仕事は単なる作業の集まりではなく、「認識の集まり」です。「この仕事は誰のためにあるのか」「なぜこのやり方をしているのか」といった問いを深めることで、初めて仕事の本質が見えてきます。
U理論に基づく対話は、こうした認識の転換を促し、仕事再設計の起点となります。単なる効率化ではなく、価値そのものを見直すことが可能になり、その対話の先には実践が求められます。気づきで終わるのではなく、小さく試し、検証し、改善する。このプロセスはデザイン思考と親和性が高く、この対話の先に、「新しいやり方(プロトタイプ)」「新しい役割分担」「新しい顧客価値」が生まれます。
これからの経営において重要なのは、「捨てる」と「育てる」を同時に進めることです。短期的には不要な仕事を削減し、生産性を高める。長期的には対話を通じて組織の質を高め、新しい価値を創造する。この二つは対立するものではなく、むしろ相互に補完し合う関係にあり、短期で生まれた余力が、長期の学習を支える基盤となるのです。不確実な時代において、経営者の役割は明確です。
一つは「決めること」、すなわちやめる仕事と集中する領域を明確にすること。もう一つは「問い続けること」、すなわち組織に新しい視点をもたらすことです。この二つを繰り返すことで、組織は変化に強い体質へと進化していきます。仕事再設計と人時生産性の向上を起点に、対話と学習を重ねることで、企業は外部環境に左右される存在から、自ら価値を生み出す存在へと変わっていくのです。


