組織の未来をつくるコラム

改革を実現する人財育成~ポータブルスキルが未来の組織をつくる~

第1章・2章では、人口動態の変化や激動する経済環境に対応するための「パラダイムチェンジ(経営の観点転換)」についてお伝えいたしました。続く第3章では、従来の効率化の枠を超え、U理論の深層対話とデザイン思考のプロトタイピング(試作と検証)を統合した「業務再設計(ジョブ・リデザイン)」のスキームをご提案いたしました。この第4章では、「それらを現場で動かすエンジンとなる人材育成」に焦点を当てます。どれほど優れた業務再設計のスキーム(仕組み)を導入したとしても、それを現場で運用・推進する「人」の能力と「関係性」が伴わなければ、一時的なイベントで終わってしまいます。本稿では、不確実性の時代において、現場自らが業務と役割を再設計し続けるための要となる「ポータブルスキルの開発」とその組織的実装について、経営陣の皆様へご提案いたします。


これまでの中小企業における人材育成は、特定の業務を迅速かつ正確にこなすための「テクニカルスキル(業務専門能力)」の向上に重きが置かれてきました。しかし、市場環境や事業モデルが目まぐるしく変化する現代において、専門スキルだけに依存した組織は大きなリスクを抱えることになります。業務そのものの形が変わったとき、対応できなくなってしまうからです。これからの時代、事業継続のカギを握るのは、業界や職種が変わっても持ち運び・応用ができる「ポータブルスキル(汎用的職業能力)」です。特に、業務再設計とU理論的アプローチを駆動させるためには、4つの核となるポータブルスキルの育成が不可欠となります。①本質を見抜く「省察的思考力」、②深層を見つめる「アクティブ・リッスン(深層傾聴)」、③安全な場を保つ「ホールド・スペース(関係性構築力)」、④新たな価値を形にする「コ・デザイン(共同創造力)」。



現場の社員がこれらの自律的に学ぶ力を獲得することで、組織の「関係性の質」が劇的に向上し、誰かに指示されなくても、現場同士の対話によって業務の無駄や構造的課題が自然と表面化・解決されるようになります。第3章で提示したU理論・デザイン思考のプロセスを通じて、現場の対話から「本来あるべき業務プロセスと新しい役割」を共創します。そして、そこで生まれた新たな挑戦やアクションを、目標管理制度に落とし込んで日々の目標として数値化・定着化させるのです。目標管理制度は、すでに決まっているゴールや枠組みに対して、「個人がどうスキルを磨き、達成するか」を評価・管理する直線的・個別的な仕組みです。ポータブルスキルに基づく業務再設計モデルは、「そもそもこの業務は何のためにあるのか」「今の役割分担は最適か」という前提そのものを疑い、構造や関係性を組み替える循環的・システム的な仕組みです。この2つは対立するものではなく、「補完関係」にあります。


ポータブルスキルが経営にもたらす3つの成果として、① 「人時生産性の向上」と「離職防止」の同時達成、② 「社長・幹部の指示待ち」からの脱却と自律型組織の実現、③ 変化に強い「レジリエンス(組織の柔軟性)」の獲得があります。第1章第2章で述べた「パラダイムチェンジ」、第3章で述べた「業務再設計とU理論・デザイン思考の統合」、そして本第4章でお伝えした「ポータブルスキルの開発」。これらはすべて、自社が不確実な未来においても永続的に価値を生み出し続けるための、不可分な一つの「成長スキーム」です。人手不足やコスト高騰が加速する今、最大の経営リスクは「現場が変化に対応できないまま硬直化すること」にあります。AIが仕事を代替する時代に、人に求められる能力は知識量ではなく「問いを立てる力」「対話する力」「関係性を築く力」「変化を受け入れる力」です。これらはまさにポータブルスキルであり、AIに代替しにくい人間固有の価値と言えます。未来への投資に向けて、ぜひ第一歩を踏み出してまいりましょう。



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