「指示待ち」から「改善者」へ: ~仕事の見直しを人財育成につなげる6か月実務研修~
人手不足や原材料費の上昇、継続的な賃上げへの対応など、中小企業を取り巻く経営環境は厳しさを増しています。今後も人材を確保し、事業を継続していくためには、賃金を引き上げられる収益構造をつくらなければなりません。しかし、価格転嫁だけですべてを賄うことは難しく、最終的には、限られた人数と時間から生み出す付加価値、すなわち「人時生産性」を高める必要があります。一方、多くの中小企業経営者は、日々の売上確保、資金繰り、採用、顧客対応に追われています。「会社全体の仕事を見直した方がよい」と分かっていても、そのための時間を確保できないのが現実です。現場も同様です。目の前の業務を終わらせることに精いっぱいで、仕事の進め方を立ち止まって考える余裕がありません。その結果、経営者は「もっと自分で考えて動いてほしい」と感じ、従業員は「何をどこまで判断してよいのか分からない」と感じるようになります。
これから企業の生存力を左右するのは、指示された仕事を正確にこなす人だけではありません。現場の変化に気づき、周囲と対話し、よりよい方法を考え、小さく試すことのできる「改善者」です。改善者とは、経営者の代わりに経営判断をする人ではありません。自分の担当業務だけでなく、仕事の前後のつながりや顧客への影響を理解し、「この進め方でよいのか」「もっとよい方法はないか」と問いを持てる人です。そのような人財は、座学だけでは育ちません。実際の仕事を題材に、対話、試行、振り返りを繰り返す経験が必要です。そこで考えられるのが、現場の業務洗い出しから始める「6か月実務研修」です。これは、講師から改善手法を学ぶだけの研修ではありません。経営者と従業員が、自社の仕事を模造紙と付箋で見える化し、問題の構造を捉え、改善案を考え、実際の現場で試すプロジェクト型の研修です。
第1か月は、現在行っている業務を付箋に書き出します。このとき、「請求書」「予約」「発注」のような名詞だけではなく、「誰が、何を、どのように行っているか」が分かるように書きます。第2か月は、書き出した業務を前工程・自工程・後工程の順に並べ、仕事と情報の流れを確認します。この段階で重要なのは、誰が悪いかを探さないことです。「なぜミスをしたのか」ではなく、「なぜミスや停滞が起きやすい仕事の流れになっているのか」を考えます。第3か月は、ECRSの原則を使って、模造紙上の付箋を動かします。
ECRSとは、業務を「排除できないか」「結合できないか」「順序や担当を変えられないか」「簡素化できないか」という順序で検討する考え方です。第4か月は、これまで見えてきた仕事の事実をもとに、経営者と従業員が将来の企業について対話します。「人が行うべき仕事は何か」「AIやシステムに任せられる仕事は何か」
第5か月は、改善案を二つか三つに絞り、小さな実験として実行します。断基準をつくって権限を現場へ移す、AIで定型業務を処理して削減時間を測るなど、失敗しても戻せる範囲で試します。第6か月は、実験結果を振り返ります。何が変わったか。時間や確認回数は減ったか。この過程で従業員は、問題発見、全体把握、他者理解、論理的思考、対話、仮説設定、実行、振り返りといったポータブルスキルを身につけていきます。経営者が方向性と判断範囲を示し、従業員が現場の事実と改善案を持ち寄り、互いの情報をつないで意思決定する職場です。そこでは、従業員は単なる作業者ではなく、仕事をよりよくする当事者になります。「指示待ち」を嘆く前に、従業員が改善者として参加できる場をつくる。その入り口として、現場の業務洗い出しから始める6か月実務研修には、大きな可能性があると考えています。
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