対話型リーダーの育成【第3話】~答えのない変化に、どう向き合うのか
「U理論のプレゼンシングから、未来を形にするプロトタイピングへ」
前回は、システム思考とU理論を通じて、問題を個人の能力や意欲だけに求めず、その行動を生み出している関係性や構造を見ることの重要性を考えました。「問題の構造は分かった。しかし、これから何を目指せばよいのか」ここで必要になるのが、U理論の最も深い段階である「プレゼンシング」です。そして、プレゼンシングによって感じ取った未来の可能性を「結晶化」し、デザイン思考のプロトタイピングによって小さく形にする。第3話では、この一連のプロセスから、これからの対話型リーダーの役割を考えます。シーイングとセンシングを通じて、これまで見えていなかった現場の実態や、問題を繰り返している構造が見えてくることがあります。しかし、変化するためには、これまで自分たちを支えてきた考え方や仕事の進め方の一部を手放さなければなりません。
ここで必要になるのが、U理論の最も深い段階である「プレゼンシング」です。プレゼンシングとは、「Presence=今ここにいること」と「Sensing=感じ取ること」を組み合わせた言葉です。未来を予測して正解を当てることでも、突然優れたアイデアが降りてくることでもありません。現状を深く観察し、異なる立場からの声を聴き、自分たちの思い込みをいったん脇に置く。そのうえで、「本当に大切にしたいことは何か」「これから何を生み出す必要があるのか」を感じ取る過程です。対話型リーダーは、自分一人ですべての答えを出し、メンバーを動かそうとする責任から、メンバーが持つ経験や知恵を引き出し、共に未来をつくる責任への転換が必要になります。プレゼンシングに向かう対話では、目の前の問題をどう処理するかだけでなく、自分たちが目指す未来を問い直します。
「私たちは、この仕事を通じて何を大切にしたいのか」「この仕事は、誰にどのような価値を届けているのか」・・・そうした対話を通じて、個人の意見の違いを超えた「自分たちが本当に大切にしたいこと」が見えてきます。プレゼンシングによって感じ取った未来の可能性は、そのままではまだ曖昧です。そこで必要になるのが「結晶化」です。結晶化とは、対話の中から見えてきた未来の方向性を、「私たちは、前後の仕事が見える職場をつくる」などメンバーが共有できる短い言葉やイメージにすることです。結晶化された言葉は、クレドや行動指針になるだけでなく、これから仕事を再設計するときの判断基準になります。ここから、U理論で結晶化した方向性を、デザイン思考によって具体的な形にしていきます。デザイン思考は「誰にためにつくるのか」を具体化するための思考の軸です。その意思決定を人間中心に置くことで結果検証の軸とすることができます。
デザイン思考では、最初から完成した制度や完璧な仕組みをつくろうとはしません。現場の人や顧客の立場から課題を捉え、仮説を立て、小さな形にして試し、得られた反応からつくり直します。実際に試すことで、「何が機能したのか」「何が使いにくかったのか」「誰にどのような影響があったのか」を学ぶことです。実際の業務課題を通じて、リーダーとしての力が育っていきます。この過程では、メンバーの力も同時に育ちます。事実と解釈を分ける力、相手の立場から考える力、問題の構造を捉える力、自分の考えを言葉にする力、異なる意見から新しい方法を生み出す力、実践を振り返って修正する力です。仕事再設計のプロジェクトは、業務を改善する場であると同時に、人財育成と組織開発の場でもあるのです。その成長の先に、人が育ち、仕事が変わり、組織が自ら進化していく姿があります。
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