二つの業務改善ミーティングの進め方について
最近、中小企業のコンサルタントの依頼は、慢性的な人手不足対策に加えて賃上げに伴う収益確保がテーマになりつつあります。人手不足対策と収益確保は一見別なものに見えますが、人事システムの中では人的資源の制約下でも最大効率を実現するためには、ジョブ型雇用への転換と人材ポートフォリオの再構築が求められます。いずれにしても現在の業務を見直す必要があります。それには、現実の業務を明確に把握し、担当と責任を明確化して効率化・生産性向上を実現するドラッカー思想に基づく業務改善が一つ目。それと組織全体の構造的課題を見える化し、人手不足や業務断絶を乗り越える協働とイノベーションの創出、新しいリーダーシップの育成を図るセンゲ思想に基づく業務改善。ドラッカーの業務改善の進め方は現在の収益確保のため、将来の収益を見据えた業務改善の取り組みがU理論センゲのミーティングです。
変化の激しい時代では、デジタル化やDXなどの新たな取り組みに目が行きがちですが、まずは今の収益を確保するのが最初です。ドラッカー式のミーティングでは、「成果を上げるには何をなすべきか?」を問いとして提示し目的を共有することが第1歩。人時生産性向上で賃上げ原資を確保する、人材の適正配置で人手不足を緩和するなど目的があれば中途でやめることはありません。まずは実際の仕事を付箋や業務一覧で見える化(業務単位・頻度・所要時間)。階層別に職責・権限を整理します。等級人制度の整備がされていれば問題ありませんが、なければ現場の職責・権限を3階層程度で整備し、無駄・重複業務の整理しながら改善案を検討していきます。留意点として各業務が成果にどう結びつくか(目的志向)を明確にしながら、階層別に職務を区切りますがすべて連動しています。全体最適を見失わないようにすることが大事です。
U理論・システム思考を基礎としたピーター・センゲ方式ミーティングを説明しますと、組織全体の構造的課題を見える化し、人手不足や業務断絶を乗り越える協働の業務改善として見直していきます。今までの仕事のやり方・物の見方(パラダイム)を吐き出し、現状の認識を全体共有します。ドラッカー式では現状分析としての現実を見ましたが、ここでは否定的な見方です。様々な部門の声を傾聴し、「仕事のつながり」「断絶」などの構造的問題を見出すセンシングという場。複数部門・階層を越えた対話を重視し、現場の暗黙知や「断絶」されている仕事の接点に注目していきます。現状に囚われず「未来の可能性」や「ありたい仕事の姿」を描くプレゼンシングという場。ここはまだイメージの世界で言葉として結晶化し、小さな試行改善を現場で試すアイデアを具体化するプレゼンシング。「正解を出す場」ではなく「問いを深める場」として設計します。
人事の仕組みは働き方改革の精神から従来の「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を余儀なくされています。しかし本当の意味での「ジョブ型」が浸透するにはまだまだ時間がかかると思います。120年前日本に科学的管理法が入ってきた時に、日本では欧米諸国とは違い制度設計取り組みから改善まで現場に委ねたことが特徴だったそうです。会議は対話型・心理的安全性重視で中心軸は将来の仕事・関係性に着眼、共創・つながりから業務を変えようとしたのでは?・・・そのように考えるとVUCAの時代には違った業務改善を取り入れるのは有効だと思います。センゲ式のミーティングでは、多様な意見が反映され、心理的安全性の向上につながり和気あいあいの対話の場です。職務の再設計や人のつながりを通じたリソース拡張が図れ、将来に向けたイノベーション、仕事の意味づけが可能になります。ただし、ファシリテーションスキルが必要で設計の難度が高いことがデメリットです。