地方の中小企業が今取り組むべき施策について
昨日、ある団体様からの依頼で会員向け「カスタマーハラスメントの基礎知識と対策」についてのセミナーの講師を務めてきました。この問題は社会課題になりつつあり労働者の健康被害が増えています。県の社会保険労務士会が実施する無料相談会の相談員を10年以上行っていますが、ハラスメントを理由とした精神障害等で休業・離職をする労働者がここ数年増えていると感じています。また今月、全国の最低賃金が出揃いましたが、各県の労働者移動を防ぐための妥結額、実施時期等かなりの妥協を余儀なくされたものと感じました。これからも毎年賃上げが続きますので、その原資をどこに求めていくのかは企業にとって大きな課題となります。地方の中小企業は社会課題の取り組みや法改正の対応など企業活動を一つの「システム」として考えていく時代と感じています。
「システム」として考える指標として、5月13日に「お知らせ」した「労働政策基本部会報告書-急速に変化する社会における、地方や中小企業での良質な雇用の在り方」から、「今取り組むべき施策」を考えたいと思います。人口減少と若年層の都市部流出で、地方・中小企業の人手不足は構造的・慢性的な現象になりつつあることの指摘と特に中小企業の不足感が強いとしています。課題の中核は①賃金・労働条件と情報発信の弱さ、②柔軟・安心な働き方の不足、③固定的な性別役割意識に起因する若年女性の流出、④専門人材のミスマッチです。生成AI・DXの進展で業務の「代替」と「補完」の同時進行が必要です。また生産性向上に資する活用が急務となっています。(特に設備投資の小さい生成AIも有効)、地方・中小の求人は情報の非対称が大きく、魅力が届いていません。
労働生産性の向上(賃上げ原資の確保)として、生成AI・DXの即時導入(文書作成・見積・発注・顧客対応・保全点検の自動化)+省力化・デジタル投資の活用支援を積極利用します。「賃金相場(職務×スキル×賃金)」の見える化を活用し、社内のスキル定義・グレード表を整備。job tag等でスキルと賃金の関係を確認・開示します。労働参加率の向上(働ける人を増やす)は、多様なニーズに応じた働き方(就業時間・勤務地・職務限定、短時間正社員、週休型・時間帯配分など)を制度化します。ジェンダーギャップの解消(若年女性流出の反転)として、社内アンコンシャス・バイアス研修+評価・配置・昇進の指標見直しを行います。(育児・介護期でもキャリアを止めない設計)
情報ギャップの解消(“知られていない”をなくす)は、企業情報の積極開示(職務内容・必要スキル・教育機会・賃金水準・キャリア例)を求人票とHPで標準フォーマット化します。これら施策の実現に向けたロードマップとしてフェーズ1、生成AI/DXのパイロット(試験的活用)、賃金相場×スキルの棚卸し着手、柔軟な働き方の社内規程原案の作成をします。フェーズ2、職種別キャリアラダーと昇給テーブル案、job tag等を参照した求人票リニューアル、カスハラ対策規程・運用訓練を行います。フェーズ3,女性活躍の評価指標導入と「えるぼし」認定の検討、学校・自治体連携の見学会の実施、OFF-JT/自己啓発支援制度を告知して募集と連動するなどが考えられます。
複数の施策を同時に進めるのは大変と思われるかもしれませんが、これを「システム」と捉えればすべてが連動する事柄です。