今後の就業形態に備えた企業のありかた
安倍政権下で進められた働き方改革ですが、このところ企業の関心も薄れ始めているようです。最低賃金の引き上げペースも5年前倒しになり、企業にとっては引上げ原資の確保に頭を悩ませることが続きそうです。「人時生産性」に目を向ければ多少の期待感が生まれると思いますが、今回は厚労省が発表し「令和6年就業形態の多様化に関する総合実態調査」の中から今後の取り組むべき施策について考えたいと思います。「個人調査資料」では、正社員と非正規労働者の職場満足度の構造が異なります。正社員では「雇用の安定性」(66.3pt)、「仕事の内容・やりがい」(60.0pt)が満足との上位項目となり安定的に働けることが心理的基盤になっています。非正規社員では「仕事の内容・やりがい」(63.3pt)「人間関係・コミュニケーション」(56.9pt)が相対的に高い一方で、「賃金」「福利厚生」の満足度が低いようです。正社員には「安定と成長の機会」非正規社員には「公正な処遇と人間関係の充実」といった二層的な施策を講じる必要があります。
非正規社員の仕事選択の意識と生活背景について考えたいと思います。非正規社員が現在の就業形態を選んだ理由をみると、最も多いのは「自分の都合のよい時間に働けるから」(40.1%)であり、次いで「家庭の事情と両立しやすいから」(26.4%)、「家計の補助や学費のため」(24.9%)、「通勤時間が短いから」(24.8%)となっています。男女差を見ると、男性は「資格や技能を活かすため」、女性は「家事・育児・介護との両立」が理由として高く、性別役割意識やライフステージが就業選択に直結していることが明らかです。非正規雇用は「生活の都合」と「安定的なキャリア志向」という二つの相反する意識を内包しています。また、臨時・派遣・契約社員の約4割が「正社員へ転換を希望」しており、安定した働き方への潜在的需要は依然として高いといえます。企業は多様な人材の動機を理解し、キャリアの選択肢を広げる仕組み(希望者への正社員登用制度、副業・短時間正社員などの制度柔軟化)を整えることが重要です。
今の日本社会で起きている人手不足は労働供給制約が要因です。景況感や企業業績に左右されず、労働供給量がボトルネックになって生じます。人口減少・人手不足が進行する中で、企業にとって非正規労働者の活用は不可避です。しかし課題として、明らかな処遇格差は是正しなければ、賃金・福利厚生の不満は、モチベーション低下や離職要因となります。前述した正社員は「安定性・成長機会」、非正規社員は「柔軟さ・人間関係」で満足度が高い傾向にある職務満足度の源泉の違いに着目して、人材施策は「キャリア開発」と「生活両立支援」をセットで進める必要があります。多くの非正規が「今の形態を維持したい」と答える一方で、将来的には安定を求める声が強い傾向にあります。現行の制度がキャリア移行を支援していない場合、潜在的な不安が離職につながる可能性があります。
「同一労働同一賃金」の徹底に加え、福利厚生(休暇制度、社内サービス利用、研修参加権)を非正規にも拡充するなど公平で納得感のある処遇制度に変えていく必要があります。また今後は、短時間正社員制度、フレキシブル勤務、副業容認など柔軟な働き方を制度化し、家事・育児・介護と両立する層への在宅勤務や時短勤務支援を強化するなどライフスタイルに対応する制度の整備。キャリア開発と登用制度の充実も必要です。非正規向けのスキル研修、資格取得支援を拡大、希望者に対しては正社員登用試験などキャリアの可視化を図るのも重要です。調査で非正規の満足度が高かった「人間関係」をさらに強化するために社内コミュニケーション施策(社内イベント、相談窓口、ピアサポート制度)を拡充することで、定着率を高めるのも大事です。これからの企業は、正社員・非正規という区分にとらわれず、多様な人材が自らのライフステージに応じて働き方を選び直せる仕組みを整えることが競争力の源泉となります。


