組織の未来をつくるコラム

人手不足は「採用強化」ではなく「仕事再設計」で解決する

多くの企業で人手不足が続いています。その度に「採用を強化しよう」「求人広告を増やそう」という判断がされがちですが、現実には応募が集まらない、採用しても定着しないという状況が起きています。人口が減り、働き手の数が減っている以上、「人を増やす前提」で仕事を組み立てるやり方は、すでに限界に来ています。今、経営者・管理職に求められているのは、「人を増やす発想」から「仕事を作り変える発想」への転換です。仕事再設計というと、「効率化」「業務削減」と受け取られがちですが、本質は誰かの頑張りに頼らず、自然に回る仕事の仕組みをつくることです。なぜこの仕事の流れはここで詰まるのか?なぜこの人に仕事が集中するのか?などといった「全体のつながり」 に目を向けます。現場を“部分”ではなく“全体の流れ”で見る、それだけです。


経営者・管理職が現場で進める際の、実践的な手順としてまず行うのは、現場の仕事を洗い出すことです。ポイントは「役職別」ではなく、「一日の流れ」「業務の順番」を模造紙やホワイトボードに、付箋で書き出すこと。正確さよりも、全体が「見える化」することを優先します。次に、仕事を次の視点で分けます。「判断が必要な仕事」「経験が必要な仕事」「誰がやっても結果が変わらない仕事」この3つを混ぜたままにすると、忙しさは減りません。特に「誰がやってもよい仕事」を、経験者が抱え込んでいるケースは非常に多く見られます。次は「仕事の流れを短く・単純にすること」です。昔のルールが残っていることや念のための確認が増えているなど仕事は足し算で増え、引き算されにくいものです。これらを「なぜ必要か」「今も必要か」と問い直します。現場の安心感を守りながら、流れを整理することが管理職の役割です。



仕事再設計は、上から決めても定着しません。そこで役立つのが、対話を中心に進めるミーティングの考え方です。最初の場では、結論を出そうとはしません。「現場で何が起きているか」「何が大変か」これを、否定せず、評価せずに聴きます。管理職が「それは違う」「前も説明した」と言った瞬間、対話は止まります。次に「立場を超えて考える」。自分の部署だけでなく他部署やお客様の立場で見るとどうかという問いを投げかけます。これにより、「部分最適」から「全体最適」へ視点が移ります。初めから大きな改革を進める必要はなく「明日から一つやめること」「試しに1か月変えてみること」など小さな1歩を決めることが大事です。小さな実験(アクションプラン)を決め、1月後に結果発表をして、修正し、次の小さな実験内容を決め実践に移します。この積み重ねが、仕事再設計を現場の文化にしていきます。


仕事再設計(ワークデザイン)とは、単なる業務削減ではなく、業務の付加価値構造、フロー、役割、スキルを再構築し、人時生産性を最大化する取り組みです。人手不足時代には「専門性を要する業務」と「誰でもできる業務」を明確に切り分け、後者は標準化・マニュアル化し、パートタイム人材やデジタル活用で代替できる形にします。現場では、ムダな待ち時間、二重記入、承認の遅延などの“非効率な構造”が積み重なっている。これらを可視化し、UMLの活動図や業務フロー図で構造的に見直すことで、作業工数を大幅に削減することも出来ます。AI・RPA・クラウドツールを活用することで、人員を増やすことなく処理能力を高めることが出来ます。人手不足の時代における経営者・管理職の役割は、「人を集めること」ではなく、「人が少なくても回る仕事を、現場と一緒につくること」です。「仕事のつくり方を一緒に見直そう」この一言から、仕事再設計は始まります。


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