「個人のせいにしない組織は問題解決が早い」
多くの組織で問題が発生したとき、最も手軽な反応は「誰が悪いのか」を探すことのようです。しかし、この“個人原因論”は見た目の安心感を与える一方で、構造的な問題の発見を遅らせ、改善を長期化させることになります。一方、システム思考が浸透した組織では、問題は“個人の失敗”ではなく、“構造が生み出す結果”として扱われます。この姿勢こそが、問題解決のスピードと質を劇的に高める鍵となります。システム思考とは、出来事だけでなく、その背後にあるパターン、さらにその原因となる構造、そして価値観・前提を捉える思考法です。しばしば「氷山モデル」で表されるように、目に見える出来事は氷山の一角であり、その下に大きな構造が横たわっているという考え方をします。システム思考の組織は「誰が悪いのか?」ではなく、「どの構造がこの結果を生み出したのか?」を問い続けます。
個人を責めない組織はなぜ問題解決が早いのか?問題発生時に「個人の責任」を追及すると、調査や心理的葛藤に多くの時間が費やされます。本人は防御的になり、周囲も情報を出しづらくなるため、真因に到達するまでに時間がかかる結果になります。個人原因論では「注意します」で終わりがちですが、これは再発防止策として極めて脆弱です。業務フローの変更やチェックプロセスの改修といった構造レベルの改善に踏み込む。結果として、持続性の高い仕組み改善につながり、再発率が大幅に下がります。システム思考の文化では、ミスは改善のための情報資源として扱われます。このため、現場が「早く・正直に」情報を出すようになり、問題の発見が圧倒的に早くなります。部門間のフィードバックループ、ボトルネックの相互関係など全体最適の視点で判断できることも要因のひとつです。
受付ミスが多発していた医療機関の例として、失敗が起きると「担当者の注意不足」とされ、教育と注意喚起が繰り返されていました。しかしミスは減らなかった。システム思考を導入した後、以下の構造が明らかになりました。①受付からカルテ準備までの仕事量が繁忙期に過密②二重チェックが人によってバラバラ。③受付担当の役割が属人化し、他者が代替できない。④忙しさに比例して「ショートカット行動」が増える構造が存在している。これらを踏まえ、①業務フローを視覚化(見える化)。②役割マトリクスを整備して代替性を確保。③チェックシートの標準化。④受付に依存しない仕組みへ再設計(分散化)といった改善を行いました。結果、半年後にはミスが劇的に減少しました。構造がミスを生まない形に「デザインし直された」からです。
システム思考が組織に浸透する将来的なメリットとして、表面的な対応ではなく、構造レベルの改善が定着するため問題解決のスピードと質が恒常的に向上します。また、毎回の問題が“組織としての学習資産”に変わります。環境変化が起きても、構造を柔軟に見直す習慣があるため、変化に強く、立て直しが早い組織になります。システム思考は本質的に「関係性を見る力」であり、若手・中堅・管理職が同じフレームで物事を捉えられることから人材育成が組織学習として循環します。属人的な業務から脱却し、「構造としての組織運営」が整うため、採用難・人手不足の時代でも少人数で安定した運営ができるメリットもあります。「個人を責めない組織は、問題解決が早い。」そしてそれを可能にするのが システム思考の浸透です。システム思考は単なる分析技法ではなく、未来の組織を強くする「文化づくり」の基盤とも言えます。


