定着率低下は「仕事量の偏り」と「見えない仕事」が原因になりやすい
「最近、人が続かない」「採用してもすぐ辞めてしまう」。多くの職場で聞かれるこの悩みの背景には、賃金や人間関係だけでなく、仕事量との関係が潜んでいることが少なくありません。ただし問題は、単純に「仕事が多いから辞める」という話ではありません。忙しい職場でも人が定着しているところは確かに存在します。一方で、極端に忙しいわけではないのに離職が続く職場もあります。この違いを生んでいるのが、仕事量そのものではなく「仕事量の構造」と「扱われ方」なのです。「誰が」「どれだけ」「どの難易度の仕事」をしているか分からない。忙しさの「体感」と「評価」が一致しないなど、仕事量が多いことより、「報われない感覚」が人を辞めさせます。
定着率が低い職場に共通するのは、仕事量が「見えていない」状態です。誰がどの仕事をどれだけ抱えているのか、難易度や責任の重さがどう違うのかが共有されていない。その結果、頼まれやすい人、断らない人、できる人に仕事が集中します。こうした人たちは忙しさだけでなく、「自分ばかり負担している」という不公平感を抱えやすくなります。さらに問題なのは、仕事が属人化している場合です。「あの人しか分からない」「任せた方が早い」という判断が積み重なると、仕事は特定の人に張り付き、周囲は手を出せなくなります。結果として、ベテランは疲弊し、新人は成長の機会を失い、組織全体の仕事量の偏りが固定化されていきます。ここでは、仕事量は個人の努力では解決できない構造的な問題へと変わっています。
仕事量が多くても定着する職場と、辞めていく職場を分ける決定的な違いは、裁量と納得感です。自分で仕事の進め方を調整できる、周囲が状況を把握している、仕事の意味が理解されている。この条件がそろえば、忙しさは「やりがい」や「成長感」に変わります。一方で、仕事を振られるだけで調整の余地がなく、なぜその仕事をしているのか分からず、忙しさが誰にも気づかれない職場では、仕事量は強いストレスになります。「忙しい × コントロールできない」状態こそが、定着率を一気に下げる最大の要因です。この状況を放置すると、退職者が出る。残った人の仕事量が増える 。 さらに疲弊する。という悪循環が生まれます。採用で人を補っても、仕事の構造が変わらなければ同じことが繰り返されます。
定着率を高めるために必要なのは、根性論や単なる業務削減ではありません。まずは仕事を棚卸し、仕事を「見える化」することです。通常業務と突発業務、判断が必要な仕事と作業レベルの仕事を分け、再配分できる余地を探ることが重要です。あわせて、「なぜこの仕事が必要なのか」「誰の価値につながっているのか」を共有することで、仕事量に意味づけが生まれます。そして何より大切なのは、日常的に仕事量を調整する対話の場を持つことです。「今、負荷はどうか」「困っていることはないか」を短時間でも確認する文化が、仕事量の偏りを未然に防ぎます。定着率の低下は、個人の問題ではなく組織の構造の危険サインです。仕事量を減らす”前に、「扱い方」を変える。その視点を持てるかどうかが、人が辞めない職場づくりの分かれ道となります。


