組織の未来をつくるコラム

「学習する組織」から考える人財定着の本質

「最近、若手が定着しない」「育てても辞めてしまう」。多くの組織で聞かれるこの悩みは、待遇や労働時間だけでは説明しきれないケースが増えています。その背景にあるのが、組織における学習の停止です。人は自分の成長を実感できなくなった瞬間から、静かに組織から心が離れ始めます。給与や肩書きよりも、「この場所にいて自分は前に進めていけるのか?」という問いに、答えが見えなくなったとき、離職は現実的な選択肢となります。ここで言う学習とは、外部研修や資格取得といった狭義の教育のことではありません。日々の仕事を通じて、意味づけが更新され続ける状態、つまり「仕事を通じて自分と組織が成長している感覚」を意味します。学習が止まった組織では「考える余地」が失われ、仕事は単なる作業へと変質していきます。


学習が止まった組織では、「前からこうやっているが口癖になる」「問題が起きると個人の能力不足に原因を求める」「会議は報告と指示だけで、対話がない」「改善提案が出ても“忙しいから”“今は無理”で終わる」などの現象が起きやすくなります。個人の学習が止まるとき、「頑張っても評価されない」「改善しても変わらない」「意見を言っても意味がない」などの感覚を抱き、「どうせ変わらない」という学習性無力感を生みます。学習する組織の視点で見ると、これは個人の問題ではなく、組織の学習構造の問題です。一方、学習する組織の考え方では、失敗や違和感が「次の改善の材料」として扱われます。ここでは、正解を早く出すことよりも、問いを共有することが重視されます。ある業務でミスが起きた場合、「なぜこの仕組みでミスが起きたのか」を考える組織。



学習する組織の中核にあるのは、対話です。対話とは、意見を戦わせることではなく、互いの前提や見方を探り合うプロセスのことで、相手の考えを知ろうとして相手の考えから自分を見つめる「視座の転換」が重要です。上司が答えを持ち、部下が正解を当てに行く関係では、学習は起きにくくなります。「上司も答えを探している」「部下の視点が意思決定に影響を与える」…こうした関係性の中で、人は「考えてよい存在」として扱われていると感じます。この感覚こそが、人財定着の土台となっていきます。離職は突然起きているわけではありません。学習が止まった瞬間から、「挑戦しなくなる」「改善提案をしなくなる」「最低限の仕事しかしなくなる」などの現象が起き、これらは離職の前兆です。


学習する組織では、こうした小さな変化を「問題行動」ではなく、「学習が滞っているサイン」として捉えます。学習を再起動するために、まず必要なのは大掛かりな制度改革ではありません。「日常業務を振り返る時間をつくる」「うまくいかなかった理由を安心して話せる場を設ける」「改善の小さな実験を評価する」など、これらはすべて学習の回路を開き直す行為です。人は「楽な場所」ではなく、「成長できる場所」に残ります。学習する組織とは、常に未完成であることを前提に、変化し続ける組織のことを指します。学習が止まると、組織は過去に縛られます。学習が続くと、組織は未来とつながります。そして人は、自分の未来が描ける場所にこそ、居続けたいと思うのです。


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