ダイバーシティの本質は「違い」ではなく「関係性」にある
近年、企業経営においてダイバーシティ(多様性)の重要性が強く叫ばれています。その背景には、少子高齢化による労働力不足、価値観の多様化、グローバル競争の激化など、企業を取り巻く環境変化にあります。従来の日本企業は、同質性の高い組織を前提に効率的な運営を行ってきましたが、その前提が崩れつつある現在、多様な人材を受け入れ活かすことが競争力の源泉として求められています。
しかし、パーソル総合研究所のダイバーシティに関する定量調査では、多くの企業が施策として取り組んでいるものの、現場レベルでは必ずしもその効果が実感されていないケースも多いことが指摘されています。本調査によれば、「多様な人材が活躍できる社会は良い」と考える従業員は約7割に達しており、理念としてのダイバーシティは広く受け入れられています。一方で、「価値観の異なる同僚と働くことにストレスを感じる」と回答した人も半数以上に上ります。
つまり、頭では理解しているが、現実の職場では抵抗感があるという「建前と本音の乖離」が明確に存在しています。さらに興味深いのは、従業員の約4割が「ダイバーシティ葛藤派」に分類される点であす。これは、理念には賛成しながらも、実務においては違和感やストレスを抱えている層であり、組織のボリュームゾーンとなっています。
では、なぜこのような抵抗感が生まれるのか。調査では主な要因として、「施策の空回り感」「仕事の不公平感」「過剰な気遣い」「関係性コンフリクト」が挙げられています。特に注目すべきは「施策の空回り感」であり、企業が形式的にダイバーシティを推進していると感じられるほど、従業員の抵抗感は強まる傾向にあります。また、評価や業務配分に対する不公平感や、配慮しすぎることで本音が言えない環境も、現場のストレスを増幅させているようです。これは、多様性そのものが問題なのではなく、それを受け止める組織の土壌が整っていないことが問題であることを示唆しています。
こうした課題に対して、本調査が提示する重要な概念が「関係のダイバーシティ」です。これは、単に多様な人材が存在することではなく、「人と人がどのようにつながり、どのように関わっているか」という関係性の多様性を意味します。具体的には、①ネットワークの数、②ネットワークの密度、③コミュニケーションの頻度、④コミュニケーションの豊かさ、という4つの要素で構成されます。
従来のダイバーシティが「誰がいるか」という視点であったのに対し、「関係のダイバーシティ」は「どのように関わっているか」という視点への転換です。この違いは本質的であり、ここにダイバーシティ推進の成否を分ける鍵があるようです。調査結果では、この「関係のダイバーシティ」が高い組織ほど、ダイバーシティへの抵抗感が低く、チームパフォーマンスやイノベーションが向上し、さらには従業員の幸福感も高まることが確認されています。
では、企業はどのような施策に取り組むべきか。第一に部署横断のプロジェクトなど接点のない人同士のつながりを創出する「関係を広げる」施策です、第二に1on1ミーティングや定期的な対話の場を設け「関係を太くする」施策です。第三に、成功事例だけでなく失敗事例の共有や、異なるテーマでの対話を通じて、コミュニケーションの幅を広げる「関係をかき混ぜる」施策です。
加えて、「風通しの良い組織」をつくることも重要です。これは、意見の対立はあるが、人間関係の対立に発展しない状態を指します。このような組織では、対話のルールが明確であり、共通認識(コモン・センス)が形成されていきます。調査が示す最大の示唆は、ダイバーシティの本質が「人の違い」ではなく「人の関係性」にあるという点です。「対立を許容しつつ関係を壊さない」文化が存在していれば、多様性は組織の力へと転換されるということです。


