地方の中小企業の未来を拓く経営戦略とは
先日、リクルートワークス研究所からワークリポート2025「令和の転換点」が公表されました。これまでの景気動向と異なる形で労働市場に構造的な変化が起きていることを明らかにしました。少子高齢化が進む中、日本社会は「労働供給制約社会」に突入しつつあり、「働き手が足りない」状況は今後さらに深刻化します。特に地方では、この影響が早期かつ深く現れると見られています。高齢化により労働人口が減少し、人手の確保が人材の取り合い「ゼロサムゲーム」になりつつあると指摘しています。日本社会が必要とする労働量を、働き手の量が下回っていることに起因する構造的な人手不足が原因ではないかという仮説がたてば、現在の若年層の都市集中傾向は、地方の働き手不足は構造的に今後も継続する傾向にあります。地方の労働力はシニア、女性に頼らざるを得ない状況になってきますので、企業においては働き方の多様化」に対応した職場づくりが重要になります。
将来的に医療・介護、インフラ整備、物流、行政など、地域生活を支える仕事での人材不足が懸念されています。これらに仕事でのサービス提供の質が低下すると、地域の暮らしや企業活動が破綻しかねません。これらの業務に携わる企業、組織は自社の業務を「地域の生活インフラ」と再定義し、地域への貢献を社員と共有しエッセンシャルワークの誇りとモチベーションを醸成していくことが重要かと思います。例えば自動車整備であれば地域の移動インフラを守る重要な仕事、飲食業は地域の高齢者の健康支援を行う重要な仕事というような再定義です。近年、企業が自社の存在意義(パーパス)を明確にしてパーパスを軸に経営を行うパーパス経営が取り上げられますが、働く人が地方に住むことの意義を考えるきっかけになるかも知れません。日本の社会的課題の解決のためスタートアップに挑む学生が増えていますが、地方においてもイノベーション創出のための企業の動きが大事だと思っています。
人口減少が進む地方では地域の課題を地域住民で解決する仕組みづくりがますます重要になってきます。企業が果たす役割として地域・企業で働く人の人材育成があります。人手不足の企業では、労働時間や形態の多様化により、長期的な育成が困難になることが報告書では指摘されています。現在の収益確保のため緊急かつ重要な仕事に多くの時間を割くため即戦力重視により、教育投資が控えられがちになるだろうとも指摘されています。仕事の優先度を決定する「緊急・重要マトリックス」では、第1ゾーン「緊急かつ重要」な仕事は誰でも優先的に選択しますが、第2ゾーン「緊急性はないが重要」よりも第3ゾーンの会議や報告などの「重要ではないが緊急」の方を次に選択するようです。第2ゾーンの企業発展のための業務課題やVUCA時代の将来的課題解決の時間がこれからますます重要です。課題解決という業務での実践的人材育成も経営戦略としても重要です。
様々な影響が予想されますが、企業として取り組むべきは「省力化×価値創造」の業務改革だと思います。業務の可視化(業務一覧表、見える化)により、無駄や属人化を排除します。前述の第2ゾーンの取り組みです。業務改善による労働時間の削減は時間単位の生産性向上に大きく寄与します。5年以内に全国加重平均1500円に最低賃金を目指す政策を推進している政府の動きを考えると生産性の向上は必須です。人時生産性と労働生産性の計算方法は違いますが従業員がこれを意識して業務改善を行うと必ず良い結果が生まれます。また。フルタイム・短時間・在宅・副業容認する働き方の多様化に対応した職場づくり、即戦力確保に向けたジョブ型採用と自社内スキルマップ作成と社内育成制度の確立など人事戦略と経営戦略の紐づけが大事です。選ばれる企業、学習する企業を目指すことが不透明・不確実な未来に柔軟に対応できる組織となります。