組織の未来をつくるコラム

中小企業の賃上げの原資は労働時間の短縮で準備する

賃上げは賃金水準を一律に引き上げるベースアップと、勤続年数が上がるごとに増える定期昇給からなります。今年の春闘は昨年に続き、大幅な賃上げで幕開けしました。しかし、中小企業の多くは、政府の目指す最低賃金「5年以内に1500円実現」は不可能との回答が半数近く上ったことを東京商工リサーチが昨年行った調査で明らかになりました。とは言え2025年最低賃金の検討はまもなく始まります。最低賃金の上昇分の原資は準備する必要があります。今日も顧問先企業の「業務改善ミーティング」を行いました。最近、多くの顧問先に話しているのが「人時生産性」を高める取り組みです。人時生産性とは、従業員1人が1時間あたりいくらの粗利益を生み出すかを表す指標です。人時生産性(円)= 粗利益(円)÷ 総労働時間(時間)という算式で計算されます。


「人時生産性」に取り組みことの時代的背景として、第一は近年の最低賃金上昇に伴う資金準備、第二は少子高齢化に伴う労働人口の減少です。「令和の転換期」で明らかになったように労働供給制約社会に突入したとされる日本において女性やシニアの労働力を借りて効率的な仕事の進め方を考えなければならないからです。「労働生産性の国際比較2024」によれば、1時間あたり生産性はOECD加盟38カ国中29位と少しは上がりましたが世界レベルではOECD平均にも及びません。労働時間の短縮は、人材の再配置やムリ・ムダ・ムラを排除し、短時間で同等以上の成果を生み出すことで総労働時間が減少することで人時生産性が上がります。向上した人時生産性は利益余力(粗利)を生み出し、従業員の昇給や処遇改善の原資になります。



売上目標を高めて賃上げの資金を準備するのも一手かも知れません。売上は一般的に顧客数×客単価書×リピート率で計算され、どこに営業強化するのかの戦略によりますが、売上に対する仕入れなどの変動費などを算入すると賃上げの原資とする率は少なくなります。労働時間の短縮は、そのまま粗利(利益余剰)になりますので、その全部が賃上げの原資に使えます。この場合、重要なのは人材の再配置です。職務基準の人事制度を持たない企業では、幹部職員が従業員人材の配置を行う際の職責・権限・責任のイメージが分かりません。顧問先でこれから募集するシニア・女性ができる仕事と専門性の高い自分たちの仕事を、仕事一覧表に貼った付箋に色ラベルで仕分けしてもらいました。グループワークを見ているとかなりの気づきがあったようです。


今日のワークからも過去の「科学的管理法」の手法が必要かな?と思っています。楠田先生が唱えた「職能資格制度」も職務の洗い出しは「テイラーシステム」そのもの、しかしAIの進歩で今ある仕事が失われていく現代において職務は職責・権限・責任は概念で捉えざるを得ない時代です。どのように再定義するかは別として、業務改善も労働時間の短縮も従来の考え方では、前には進まないことが多いようです。会社の業務全体をシステムとして考え、絶対はずせない業務と他の要素の組み合わせ、あるいは違った考え方を取り入れるなどのシステム思考が大事です。U理論に基づく変革プロセスを通じてアクションプランの実行と検証・修正など地道な活動の先に労働時間の短縮の成功があります。