人的資本経営のカギは人材ポートフォリオの再構築
帝国データバンクの調査によると、2025年4月時点で正社員の人手不足を感じている企業は51.4%となり、4月としては2023年と同水準で過去最高を記録しました。慢性化した人手不足は深刻な高止まり状態が続いていると分析しています。今後、正社員の獲得は年を追うごとに厳しさを増すことが予測されます。中小企業を含め国内の企業は「人材」を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」を目指しています。中核業務・専門業務と定型・反復業務の機能分化を視野に、人的資源の制約下でも「最大効率」を実現し、パートタイマー・シニア・女性など多様な人材の生産性を最大化するために、テイラーの科学的管理法を再構築的に導入します。
職務階層ごとの体制整備と人材育成方針を決定した上で、初任層・中堅層(現場従事者・パートタイマー・シニア)には、作業単位を「工程ごと」に細分化し、マニュアル、動画、作業チェックリストを整備し、誰でも同じ成果が出せる状態にする業務の標準化を実施します。タクトタイム方式(作業周期の標準化)を取り入れ、ムリ・ムダ・ムラの排除を促進していく科学的管理法を導入します。専門的中堅層には、標準作業書の整備と、ナレッジベースやFAQ活用などナレッジ共有のルールを作成します。標準化・作業分解の推進が、人への投資と表裏一体であることを社内に発信し、人的資本経営との接続を宣言します。またテイラー的「分業」だけでなく「成長投資」と併記する必要があります。作業分析、帳票自動化、教育動画作成などにAIツールを活用するなどAI導入を中期戦略に組み込むリスキリングも重要です。
科学的管理法を導入するメリットは、業務の属人性が排除され、人手不足時でも作業継続が可能になります。作業効率・生産性の可視化が進むことで多様な人材(シニア・パートなど)でも即戦力化が可能になります。中核・専門業務以外の仕事の時間短縮が期待できることで、1日の労働投入量の減少も期待され人時生産性の向上が可能となります。デメリットとしては、標準化が過度に進むと「創造性」や「当事者性」を損ねる可能性があります。人的資本経営と相反する側面がありますので、企業や組織内でスムーズに情報共有や意思疎通を促すためのコミュニケーションのツールの活用など検討する必要があります。マニュアルの更新・維持にコストと人材が必要となることから、管理監督の負担が増加する場合があります。
人手不足の時代に、従来の正社員中心の仕事の進め方では業務が回らない時代に突入します。今後の
人財戦略として主婦・シニアのパート労働者と中核・専門業務を担う労働者の機能分化は考えざるを得ません。短時間のパートタイマーの方には業務の標準化、作業終期の標準化によって効率的な仕事の進め方で時間短縮を目標に評価制度を導入することも一案かもしれません。労働時間単位あたりの付加価値(人時生産性)を可視化し、全工程に目標を設定してキャッシュ・イン・フローを増加させます。売上の増加が難しい時代には、人材ポートフォリオの見直しで人時生産性を向上させることが唯一の手段かと思います。多様な労働力参入と機能分化がそれを可能とします。