組織の未来をつくるコラム

福祉事業のカスタマーハラスメント対策について

今月、福祉事業団体からの依頼でケアマネージャー(ケアマネ)向けのカスタマーハラスメント(カスハラ)のセミナーを行うことになっています。調べてみると、日本介護支援専門員協会のシンクタンク部門が実施した調査結果では、過去1年間にカスハラを受けたと答えた割合は37.7%に及びます。加害者の大半は利用者やその家族、主介護者、業務に深刻な影響を及ぼしかねない実態が改めて浮き彫りになりました。具体的な被害の内容では、「言葉の暴力や精神的な攻撃」が最も多く、「過度な要求」「根拠のないクレーム」「度を越えた電話」なども目立っています。介護は生活に深く関わる支援でありますので、利用者や家族の感情が爆発しやすい場であるようです。


高齢者本人の病状や家族の介護疲れ、経済的な負担などさまざまなストレスがケア提供者に向けられやすいとういう構造的な背景があります。カスハラは利用者又はその家族からの福祉サービス等のクレーム・言動のうち、そのクレーム・言動が要求の内容の妥当性に照らして、その要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって労働者の就業環境が害されるもの定義されています。福祉職員の提供する福祉サービスに過失や瑕疵がない場合や提供するサービスと関係がない要求が不当な場合などが妥当性に欠く要求に当たります。また自分の要求を実現するための身体への暴力・精神的な攻撃などの手段・態様が社会通念上不当な言動としてカスハラに当たります。



どこまでを福祉サービスを提供する事業者に要求して良いの分かりにくいという部分もカスハラが発生しやすい原因のひとつです。介護施設や老人ホームに入居する際に「安心して生活できるように出来る限りの支援をします」というような漠然とした内容のパンフレットを見たりして説明を聞いて入所したとします。入所後に利用者のサービスの期待値と提供される内容に乖離があれば利用者は期待値の近いサービスを要求してきます。何を提供し、何が出来ないのかを具体的に説明せずに事業者側の曖昧な説明や営業トークをしていることにより、結果的にカスハラが発生してしまいます。サービスを提供する側とそれを受ける側では、福祉事業の情報量に大きな差があり情報の非対称性を意識した丁寧な説明が必要です。


このような事案が実際に起こった場合に、事業者はカスハラに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報を基に、その行為が事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認することが必要です。カスハラ対策の基本的な枠組みを構築するためには、事業のトップが組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応の在り方を従業員に周知・啓発し、教育することが重要です。事前にカスハラを受けた職員が相談できるよう相談対応者を決めておく、または相談窓口を設置し、従業員に広く周知することも事前準備として必要です。自社のカスタマーハラスメントを社内だけではなく、顧客等の社外に向けた周知・啓発活動の有効な手段だと思います。